最高裁DVD
<離婚>最高裁DVD 父母間の紛争急増、子どものために
最高裁が、離婚に直面した両親に対し、子供を最優先に考えるよう促すDVDを制作した。異例ともいえる取り組みの背景には、未成年の子供を伴う離婚が年16万件(04年人口動態調査)に上る「離婚社会」がある。養育費の支払いや子供との面接交渉をめぐる父母間の紛争も増加する中、子供のために社会的な手立てが必要になっている。【望月麻紀】 (毎日新聞) - 2006年5月19日3時11分更新
◇「子供の幸せ優先に」と促す
DVDのドラマ編。小学1年の「えみちゃん」の両親は、仕事と育児をめぐる意見の対立が絶えず、母親が離婚を決意したという前提で始まる。
カメラはえみちゃんを追う。「映画を見よう」と2人をテレビの前に誘い、間を取り持とうとするが、応じない。そっと部屋のドアを閉め、一人で映画を見る。別の日の夜、別室から養育費や親権をめぐって両親が言い争う声が聞こえる。「教育費を払える方が育てるべきだ」「足りない分はあなたが払ってくれればいい」。えみちゃんは祈った。「きっと自分のせい。いい子になるので離婚しませんように」
その後、えみちゃんは不安がストレスになり、学校でかんしゃくを起こすなどして不登校に。父親の父が「調停を申し立てる方法もある。いつまでも角を突き合わせれば、えみは不幸せになる」と2人に助言。こんなストーリーで、両親の離婚に直面した子供に起こり得る心身の変化がリアルに映像化されている。
DVDは、争いの渦中で子供の変化を見落としがちな両親に気づいてもらうためのものだ。「養育費を払う以上、面会は当たり前」「親権を取るなら養育費も自分で稼げば」など子供に関する取り決めが、互いの取引材料になるのを避け「子供の幸せを優先に」と促す目的もある。
「えみちゃん」のように両親が離婚した未成年の子供は、04年の人口動態調査によると27万人を超える。一方で、同年の司法統計によると、養育費や面接交渉をめぐる「子の監護に関する調停」の新規受理件数は2万2273件。10年前の2倍以上に急増している。
家裁調査官OBで組織し、面接交渉の取り次ぎなど離婚家庭を支援している社団法人「家庭問題情報センター」の永田秋夫事務局長は「父親が育児参加するようになり、父親が親権を求めたり、得られなかった親権の代わりに、面接交渉を求めたりするため、争うケースが増えているのではないか」と指摘する。
◇家裁利用は1割 限られるDVDやビデオ視聴者
先行例もある。大阪家裁は01年、アニメ映像を自主制作した。離別に伴って子供に起こり得る変化などを両親に伝える内容で、調停の待ち時間に見せている。04年からは調査官によるパソコン画面を使ったオリエンテーションも実施しており「親権を決めるには、子供の気持ちや両親との関係にも配慮を」などと説いてきた。調査官の一人は「ほとんどの人が受講し、熱心に聴いている」と手応えを語る。
しかし「努力はしても、裁判所は利用する人にしか働きかけられない」とも言う。離婚の9割は当事者間の話し合いによる協議離婚で、家裁を利用するケースは1割に過ぎない。裁判所が制作したDVDやビデオの視聴者は限られる。
こんなケースがある。都内に住む40代男性は離婚して5年。小学高学年の一人娘と月2回、面会を続けてきた。不在がちな母親との生活に娘が不満を漏らしたため、昨年親権者の変更を家裁に申し立てたが、母親が出席せず、不調に終わった。これを機に、母親は娘の面会を拒否し、携帯電話が父娘をつなぐ唯一の手段だ。男性は「元妻に子供の気持ちを理解してもらいたい」と話すが、きっかけがつかめない。
◇「民間団体と連携を」専門家、役割分担を提言
早稲田大大学院の棚村政行教授(民法)は、最高裁の新たな取り組みを積極評価する一方で「深刻化しているケースでのプログラム利用はあまり効果的ではない。適切な情報や援助で話し合いが十分可能な層に利用すれば無駄な争いが減り、家裁の負担軽減になる」と指摘。相談や離婚後の親子交流支援などを非営利民間団体に任せ「家裁との役割分担と連携を図るべきだ」と提言し、FPICや日本司法支援センターの活用を一例に挙げる。センターは紛争の法的解決に役立つ制度などを紹介するため、司法制度改革の一環として今年4月、全国の地裁所在地などに開設されている。
一方、ドメスティックバイオレンス(DV)被害女性の担当経験が豊富な宮地光子弁護士は「裁判所は他にやるべきことがある」と主張し、あるケースを挙げる。
DV被害者の母親は、調停離婚の合意に基づいて父子を面会させてきたが、元夫の言動が引き金となって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した。母親は面接交渉の調整を求める調停を申し立てたが折り合えず、大阪家裁は審判で「父子の関係には問題がなく、今後も父親が面接交渉を続けることが子供の福祉に沿う」と再開を命じた。母親は抗告中だ。
宮地弁護士は「家裁は面会を大前提としているようだが、それに伴うトラブルは多い。面会の影響を追跡する長期の調査・研究に取り組むべきだ」と指摘している。
◇各国の離婚件数と離婚率(03年)
国 離婚件数 離婚率
ロシア 79万8824 5.5
米 国* 91万1819 3.7
韓 国 16万7096 3.5
英 国 16万6536 2.8
ドイツ 21万3975 2.6
日 本 28万3854 2.2
フランス 12万7966 2.1
中 国 133万 1.0
イタリア 4万1835 0.7
国連などまとめ(推計値含む)
離婚率は人口1000人当たり
*米国はカリフォルニアなど5
州のデータを含まず
最高裁が、離婚に直面した両親に対し、子供を最優先に考えるよう促すDVDを制作した。異例ともいえる取り組みの背景には、未成年の子供を伴う離婚が年16万件(04年人口動態調査)に上る「離婚社会」がある。養育費の支払いや子供との面接交渉をめぐる父母間の紛争も増加する中、子供のために社会的な手立てが必要になっている。【望月麻紀】 (毎日新聞) - 2006年5月19日3時11分更新
◇「子供の幸せ優先に」と促す
DVDのドラマ編。小学1年の「えみちゃん」の両親は、仕事と育児をめぐる意見の対立が絶えず、母親が離婚を決意したという前提で始まる。
カメラはえみちゃんを追う。「映画を見よう」と2人をテレビの前に誘い、間を取り持とうとするが、応じない。そっと部屋のドアを閉め、一人で映画を見る。別の日の夜、別室から養育費や親権をめぐって両親が言い争う声が聞こえる。「教育費を払える方が育てるべきだ」「足りない分はあなたが払ってくれればいい」。えみちゃんは祈った。「きっと自分のせい。いい子になるので離婚しませんように」
その後、えみちゃんは不安がストレスになり、学校でかんしゃくを起こすなどして不登校に。父親の父が「調停を申し立てる方法もある。いつまでも角を突き合わせれば、えみは不幸せになる」と2人に助言。こんなストーリーで、両親の離婚に直面した子供に起こり得る心身の変化がリアルに映像化されている。
DVDは、争いの渦中で子供の変化を見落としがちな両親に気づいてもらうためのものだ。「養育費を払う以上、面会は当たり前」「親権を取るなら養育費も自分で稼げば」など子供に関する取り決めが、互いの取引材料になるのを避け「子供の幸せを優先に」と促す目的もある。
「えみちゃん」のように両親が離婚した未成年の子供は、04年の人口動態調査によると27万人を超える。一方で、同年の司法統計によると、養育費や面接交渉をめぐる「子の監護に関する調停」の新規受理件数は2万2273件。10年前の2倍以上に急増している。
家裁調査官OBで組織し、面接交渉の取り次ぎなど離婚家庭を支援している社団法人「家庭問題情報センター」の永田秋夫事務局長は「父親が育児参加するようになり、父親が親権を求めたり、得られなかった親権の代わりに、面接交渉を求めたりするため、争うケースが増えているのではないか」と指摘する。
◇家裁利用は1割 限られるDVDやビデオ視聴者
先行例もある。大阪家裁は01年、アニメ映像を自主制作した。離別に伴って子供に起こり得る変化などを両親に伝える内容で、調停の待ち時間に見せている。04年からは調査官によるパソコン画面を使ったオリエンテーションも実施しており「親権を決めるには、子供の気持ちや両親との関係にも配慮を」などと説いてきた。調査官の一人は「ほとんどの人が受講し、熱心に聴いている」と手応えを語る。
しかし「努力はしても、裁判所は利用する人にしか働きかけられない」とも言う。離婚の9割は当事者間の話し合いによる協議離婚で、家裁を利用するケースは1割に過ぎない。裁判所が制作したDVDやビデオの視聴者は限られる。
こんなケースがある。都内に住む40代男性は離婚して5年。小学高学年の一人娘と月2回、面会を続けてきた。不在がちな母親との生活に娘が不満を漏らしたため、昨年親権者の変更を家裁に申し立てたが、母親が出席せず、不調に終わった。これを機に、母親は娘の面会を拒否し、携帯電話が父娘をつなぐ唯一の手段だ。男性は「元妻に子供の気持ちを理解してもらいたい」と話すが、きっかけがつかめない。
◇「民間団体と連携を」専門家、役割分担を提言
早稲田大大学院の棚村政行教授(民法)は、最高裁の新たな取り組みを積極評価する一方で「深刻化しているケースでのプログラム利用はあまり効果的ではない。適切な情報や援助で話し合いが十分可能な層に利用すれば無駄な争いが減り、家裁の負担軽減になる」と指摘。相談や離婚後の親子交流支援などを非営利民間団体に任せ「家裁との役割分担と連携を図るべきだ」と提言し、FPICや日本司法支援センターの活用を一例に挙げる。センターは紛争の法的解決に役立つ制度などを紹介するため、司法制度改革の一環として今年4月、全国の地裁所在地などに開設されている。
一方、ドメスティックバイオレンス(DV)被害女性の担当経験が豊富な宮地光子弁護士は「裁判所は他にやるべきことがある」と主張し、あるケースを挙げる。
DV被害者の母親は、調停離婚の合意に基づいて父子を面会させてきたが、元夫の言動が引き金となって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した。母親は面接交渉の調整を求める調停を申し立てたが折り合えず、大阪家裁は審判で「父子の関係には問題がなく、今後も父親が面接交渉を続けることが子供の福祉に沿う」と再開を命じた。母親は抗告中だ。
宮地弁護士は「家裁は面会を大前提としているようだが、それに伴うトラブルは多い。面会の影響を追跡する長期の調査・研究に取り組むべきだ」と指摘している。
◇各国の離婚件数と離婚率(03年)
国 離婚件数 離婚率
ロシア 79万8824 5.5
米 国* 91万1819 3.7
韓 国 16万7096 3.5
英 国 16万6536 2.8
ドイツ 21万3975 2.6
日 本 28万3854 2.2
フランス 12万7966 2.1
中 国 133万 1.0
イタリア 4万1835 0.7
国連などまとめ(推計値含む)
離婚率は人口1000人当たり
*米国はカリフォルニアなど5
州のデータを含まず
by mousavian | 2009-01-01 20:56 | 報道記事